2019年 京都府長岡京市 改修
中野家住宅は京都から大阪へ抜ける旧西国街道沿いにあり、この地域でもひと際立派な屋敷構えの建物である。この敷地には江戸時代に建てられた母屋・蔵があり、近世に京都の町屋大工である九代・北村傳兵衛が主屋の一部と茶室を改修している。所有者は自身が暮らしてきた思い入れのある建物を長く保存したいと考え、平成26年 長岡京市に寄贈した。
平成29年、障害者の就労を支援する団体「一般社団法人 暮らしランプ」による活用提案を市が採択し、主屋を飲食店と福祉施設とする計画が始まった。この計画は障害者が夜間に働ける飲食店として、地域に根ざした障害者就労支援のモデルとなるべく、日本財団の「はたらくNIPPON!計画」として採択されたプロジェクトでもある。
北庭に面する主屋の座敷をおばんざいとお酒のお店「なかの邸」として改修した。三間続きの座敷や、庭に面する縁側など非常にシンプルで趣があり、新たな建築的な操作は最小限に留め、建物の持っている特質を活かした再生を心がけた。中野家住宅を未来に繋いで行きたい気持ちから、店名を「なかの邸」とし、お店の目印となっている大きな暖簾にも中野家の家紋である「違い鷹の羽」を取り入れている。
平成30年、中野家住宅は大阪府北部地震や度重なる台風により甚大な被害を受けたが、このプロジェクトにより新たな場所として再生された。「なかの邸」が全国でも珍しい障害者が夜間に働ける飲食店として発展することはもとより、これからも多くの方が集まり愛される場所となるよう願っている。
■事業主 :一般社団法人 暮らしランプ
■所有者 :京都府長岡京市
■支援者 :日本財団はたらくNIPPON計画
■改修設計:中田哲建築設計事務所+好日舎
■施工 :株式会社平安建設
■撮影 :市川靖史
■掲載 :『住宅建築』No.478 2019年12月号
まちに開く、登録有形文化財のこれから
2018年 京都市上京区 町家改修
二条城近くにある大型の町家を
一棟貸しのゲストハウスとして改修致しました。
事業活用後、持ち主が再度住宅として使用できるような
長期的な視野を持った計画です。
■設計:中田哲建築設計事務所
■撮影:中田哲
京都市北西部にある西賀茂地域。市街地から程よく距離があり、田畑が多く残る長閑な地域。近くには上賀茂神社や鴨川遊歩道があり、京都の夏の風物詩、五山の送り火のひとつ「船形」が間近に見えます。京都らしい豊かな環境の中、近年では田畑を小割りした狭小建売住宅が増え、地域の様子が急激に変化しています。
■計画のはじまり
老朽化したワンルームアパートの建替えに際し、この地域に合ったライフスタイルを提案する賃貸住宅を計画。西賀茂の自然豊かな環境に魅力を感じるであろうナチュラル志向な家族をターゲットとして想定し、2つのコンセプトを掲げて設計しました。
コンセプト1 木に触れる家
内装には自然素材を使用しました。壁は全て漆喰仕上げとし、床には足触りの良いヒノキやスギのフローリング。家の中心となる柱には、京都市産材である北山杉の丸太を配置。経年変化で味わいの出る素材を使うことで、賃貸住宅でも手間をかけ愛着を持ってもらえるよう計画しました。
コンセプト2 共有する庭
庭を広くとるために、総二階の建物で計画。近隣で続々と建築される狭小建売住宅のように、それぞれの敷地に猫の額ほどの庭をもつのではなく、住まわれる家族が互いの庭を借景とすることで、実際の専有面積以上の広がりを感じられる設計としました。各住戸からの視線は交わらないように配慮しています。
前庭には常緑のソヨゴ、中庭・奥庭には冬の陽当たりを考えてヤマボウシや紅葉などの落葉樹。鳥が集まるようにジューンベリーなど果樹のなる木も植えました。敷地境界に塀を立てないことで、暮らす家族だけでなく、近隣の方の目も楽しませてくれます。
便利さや金額など 画一的な条件で住まいを選ぶのではなく、この西賀茂の家は、ビジョンに共感する人が集い暮らし、共有庭を通じてコミュニケーションや思いやりがうまれることを期待しています。
■設計:中田哲建築設計事務所+好日舎
■施工:株式会社フラットエージェンシー
■作庭:庭知 伊庭 知仁
■撮影:沼田 俊之