2022年 京都市上京区 保存復原プロジェクト
【日本イコモス奨励賞2022 受賞】
大正・昭和の京都画壇で活躍した洋画家・太田喜二郎の住宅(1924(大正13)年竣工)。国登録有形文化財(建造物)と景観重要建造物に指定されている。
建築家・藤井厚二は生涯で約50の住宅を設計しており、太田邸は唯一のアトリエ付住宅である。昭和、平成に暮らしに合わせた改変があったが、2年半の調査期間を経て、令和3年秋から約1年間の復原工事を行った。
太田邸が恵まれていたのは、聴竹居倶楽部、八木邸倶楽部、京都文化博物館、目黒区美術館、京都市文化財保護課、京都市景観政策課、古材文化の会など、多くの方の協力があったことである。令和元年に開催された「太田喜二郎と藤井厚二展」の調査時に学芸員の方が解読した太田の日記、現存する藤井のスケッチ、多くの古写真から、現状建物の実測だけでは知り得ない事柄が多く判明。今回の復原考察に大いに役立った。基本的に建築当初の健全な材は再利用し、新しい材は塗装せず新旧が明確になるよう心掛けた。また公開する部屋は復原を優先するが、水まわりや個室などは暮らしに合わせた改修とした。
無事に竣工し、何より所有者の方に喜んで頂けたことを嬉しく思っている。
令和4年、京都モダン建築祭にて初めての一般公開。建物を紹介するだけでなく、太田や藤井の人物像や所有者様の想いを伝え、熱心にご覧頂くことが出来た。今後も住宅として利用しながら無理のない一般公開を目指している。この活動を一歩ずつ積み重ねていくことが、建物保存に繋がると信じている。
これからの太田喜二郎家住宅に、どうぞご期待ください。
2021年 京都市左京区 新築
【2021年 グッドデザイン賞 受賞】
【2021年 京都デザイン賞 審査員賞 受賞】
【第10回 京都建築賞 奨励賞 受賞】
京都市左京区。下鴨神社や鴨川へのアクセスのよい小さな木造住宅が密集する住宅街。老朽化した昭和の賃貸住宅3戸の建替え計画。交通の便や床面積などの画一的な条件で比較されるのでは無く、建物のビジョンに共感する人に入居してもらえる賃貸住宅を計画しました。通り抜けの交通量が多い道路から、いかにして静かな住環境を確保するか。豊かな庭をどのように配置するか。屋根付きの駐車場をどのように確保するかを検討。正方形に近い本敷地を3分割すると南北に細長い形状となり、カーポートを設置すると、ネコの額ほどの小さな庭しか残らず、各戸の間には使い道のない無駄な空間が発生します。本計画では1敷地に3住戸が中庭を囲い、大屋根がロの字型に繋がるプランとしました。
中庭を中心に東西北に住戸、南に駐車場と上部にテラスを配置。天井の低いエントランスを抜け、中庭の回廊から各戸の玄関へ。回廊から空を見上げると四角く切り取られた静かな空が出迎えてくれます。この計画の核となる中庭は、アオダモの木を中心に四季を感じられる植栽を植え、窓先に見える木立、樹木が作り出す陰翳が屋内からも自然を感じさせてくれます。各戸を大屋根で繋げることで生じた屋外空間を、専用の駐輪場や広いテラスとして使用。テラスでは朝食を食べたりハンモックに揺られたり多様な使い方が出来るだけでなく、中庭への風通しと隣戸の生活音への配慮を両立させました。 また、前面道路周りにも緑を配置し、近隣を通る人々の目を楽しませてくれます。自然豊かな住環境を通じて住民同士の価値観が共鳴し、屋外空間を通じてコミュニケーションが育まれることを期待しています。
■事業主 :ミヤマタ不動産
■設計 :中田哲建築設計事務所+好日舎
■施工 :株式会社フラットエージェンシー
■作庭 :庭知 伊庭知仁
■撮影 :市川靖史
■動画撮影:石川奈都子写真事務所
2019年 京都府長岡京市 改修
中野家住宅は京都から大阪へ抜ける旧西国街道沿いにあり、この地域でもひと際立派な屋敷構えの建物である。この敷地には江戸時代に建てられた母屋・蔵があり、近世に京都の町屋大工である九代・北村傳兵衛が主屋の一部と茶室を改修している。所有者は自身が暮らしてきた思い入れのある建物を長く保存したいと考え、平成26年 長岡京市に寄贈した。
平成29年、障害者の就労を支援する団体「一般社団法人 暮らしランプ」による活用提案を市が採択し、主屋を飲食店と福祉施設とする計画が始まった。この計画は障害者が夜間に働ける飲食店として、地域に根ざした障害者就労支援のモデルとなるべく、日本財団の「はたらくNIPPON!計画」として採択されたプロジェクトでもある。
北庭に面する主屋の座敷をおばんざいとお酒のお店「なかの邸」として改修した。三間続きの座敷や、庭に面する縁側など非常にシンプルで趣があり、新たな建築的な操作は最小限に留め、建物の持っている特質を活かした再生を心がけた。中野家住宅を未来に繋いで行きたい気持ちから、店名を「なかの邸」とし、お店の目印となっている大きな暖簾にも中野家の家紋である「違い鷹の羽」を取り入れている。
平成30年、中野家住宅は大阪府北部地震や度重なる台風により甚大な被害を受けたが、このプロジェクトにより新たな場所として再生された。「なかの邸」が全国でも珍しい障害者が夜間に働ける飲食店として発展することはもとより、これからも多くの方が集まり愛される場所となるよう願っている。
■事業主 :一般社団法人 暮らしランプ
■所有者 :京都府長岡京市
■支援者 :日本財団はたらくNIPPON計画
■改修設計:中田哲建築設計事務所+好日舎
■施工 :株式会社平安建設
■撮影 :市川靖史
■掲載 :『住宅建築』No.478 2019年12月号
まちに開く、登録有形文化財のこれから
2018年 京都市上京区 町家改修
二条城近くにある大型の町家を
一棟貸しのゲストハウスとして改修致しました。
事業活用後、持ち主が再度住宅として使用できるような
長期的な視野を持った計画です。
■設計:中田哲建築設計事務所
■撮影:中田哲
京都市北西部にある西賀茂地域。市街地から程よく距離があり、田畑が多く残る長閑な地域。近くには上賀茂神社や鴨川遊歩道があり、京都の夏の風物詩、五山の送り火のひとつ「船形」が間近に見えます。京都らしい豊かな環境の中、近年では田畑を小割りした狭小建売住宅が増え、地域の様子が急激に変化しています。
■計画のはじまり
老朽化したワンルームアパートの建替えに際し、この地域に合ったライフスタイルを提案する賃貸住宅を計画。西賀茂の自然豊かな環境に魅力を感じるであろうナチュラル志向な家族をターゲットとして想定し、2つのコンセプトを掲げて設計しました。
コンセプト1 木に触れる家
内装には自然素材を使用しました。壁は全て漆喰仕上げとし、床には足触りの良いヒノキやスギのフローリング。家の中心となる柱には、京都市産材である北山杉の丸太を配置。経年変化で味わいの出る素材を使うことで、賃貸住宅でも手間をかけ愛着を持ってもらえるよう計画しました。
コンセプト2 共有する庭
庭を広くとるために、総二階の建物で計画。近隣で続々と建築される狭小建売住宅のように、それぞれの敷地に猫の額ほどの庭をもつのではなく、住まわれる家族が互いの庭を借景とすることで、実際の専有面積以上の広がりを感じられる設計としました。各住戸からの視線は交わらないように配慮しています。
前庭には常緑のソヨゴ、中庭・奥庭には冬の陽当たりを考えてヤマボウシや紅葉などの落葉樹。鳥が集まるようにジューンベリーなど果樹のなる木も植えました。敷地境界に塀を立てないことで、暮らす家族だけでなく、近隣の方の目も楽しませてくれます。
便利さや金額など 画一的な条件で住まいを選ぶのではなく、この西賀茂の家は、ビジョンに共感する人が集い暮らし、共有庭を通じてコミュニケーションや思いやりがうまれることを期待しています。
■設計:中田哲建築設計事務所+好日舎
■施工:株式会社フラットエージェンシー
■作庭:庭知 伊庭 知仁
■撮影:沼田 俊之